目次
- 【最重要】物件探しより先にやるべきこと:成功は「事業計画」で9割決まる
1-1. なぜ「診療メニュー」の明確化が不可欠なのか
1-2. 事業計画から逆算するクリニックの最適規模
- プロが伝授!内見で必ず確認すべき3つの生命線
ポイント① 給排水設備:理想の動線を左右する隠れた最重要項目
ポイント② 電気容量:医療機器導入の思わぬ落とし穴
ポイント③ 天井の高さ:快適性と内装コストのバランスを見極める
- 契約だけでは終わらない!開業に必要な2大行政手続きのポイント
3-1. 消防署への届出:「防火管理者」の選任と計画
3-2. 保健所への届出:事前相談で手戻りを防ぐ
- 理想の物件は待ってくれない!テナント決定までのリアルな期間
- まとめ
1. 【最重要】物件探しより先にやるべきこと:
成功は「事業計画」で9割決まる
多くの先生が、まず物件を探し、それからクリニックの具体的な内容を考え始めます。しかし、これが最大の落とし穴です。理想のクリニックを実現するためには、テナント契約の前に「どのような医療を提供したいか」を徹底的に具体化しておく必要があります。
1-1. なぜ「診療メニュー」の明確化が不可欠なのか
提供したい施術メニューや導入したい医療機器が決まっていなければ、本当にその物件が適しているか判断できません。
- 動線の具体化:診療内容が決まれば、スタッフや患者様の最適な動線、診察室や処置室の数、水回りが必要な場所が自ずと見えてきます。
- 設備条件の明確化:大型のレーザー機器を複数台導入する場合、それに見合った電気容量が必須です。古いビルでは容量が足りず、希望の機器が導入できない、あるいは高額な追加工事費が発生するケースも少なくありません。
診療メニューを決めずにテナント探しを進めると、「契約したのに理想のレイアウトが組めない」「想定外の追加工事で資金計画が狂ってしまった」という事態に陥りかねません。
1-2. 事業計画から逆算するクリニックの最適規模
診療メニューと合わせて、大まかな事業計画を立てることも重要です。
- 売上目標とスタッフ規模から、必要なベッド数や診察室数を算出する。
- 1日に対応可能な患者数をシミュレーションし、「この広さで本当に足りるのか?」を事前に検証する。
このように、 「クリニックの設計図」を頭の中に描いてから物件探しに臨むことが、後悔しないテナント選びの絶対条件です。
2. プロが伝授!
内見で必ず確認すべき3つの生命線
クリニックの設計図が固まったら、いよいよ物件の内見です。その際、不動産業者の情報だけを鵜呑みにせず、先生ご自身の目で、そして専門家の助言を得ながら以下の3つのポイントを必ずチェックしてください。
ポイント① 給排水設備:
理想の動線を左右する隠れた最重要項目
レイアウトの自由度を最も大きく左右するのが「給排水設備」の位置と性能です。
- 排水口の位置と口径:排水口が想定外の場所にしかなかったり、配管が細かったりすると、トイレや手洗い場、パウダールームの設置場所が著しく制限されます。
- 床の段差:無理に配管を通そうとすると、床に不自然な段差ができてしまい、バリアフリーの観点からも問題が生じることがあります。
- 排水量:特に美容皮膚科などで院内に洗濯機を複数台置く場合、排水量が大きくなるため、配管のキャパシティが十分かを確認する必要があります。
「この場所に手洗い場を設置したい」という希望が、排水設備の問題で叶えられないことは頻繁に起こります。内見の段階でビル管理会社や専門家と共に確認し、理想の動線が実現可能かを見極めましょう。
ポイント② 電気容量:
医療機器導入の思わぬ落とし穴
ピコレーザーや脱毛レーザーなど、単相200Vといった大きな電力を必要とする医療機器は珍しくありません。
- ビルの総電気容量:テナント内で使用できる電気容量が、導入したい医療機器の合計電力に見合っているかを確認します。
- 増設工事の可否と費用負担:容量が不足している場合、増設工事が可能か、またその費用は誰が負担するのか、を契約前に明確にする必要があります。最悪の場合、工事自体が不可能なケースもあります。
希望の医療機器を導入できないことは、事業計画そのものを揺るがす大きな問題です。必ず事前に確認しましょう。
ポイント③ 天井の高さ:
快適性と内装コストのバランスを見極める
見落としがちですが、「天井の高さ」も重要なチェックポイントです。
- 低すぎる天井:空間に圧迫感が生まれ、患者様に窮屈な印象を与えてしまいます。
- 高すぎる天井:開放感はありますが、空調効率が悪くなり光熱費が嵩む原因に。また、壁を天井まで施工する必要が生じ、内装工事費が想定以上に膨れ上がることもあります。
先生が思い描くクリニックの雰囲気に合わせ、「低すぎず、高すぎない」最適な高さの物件を選ぶことが、快適な空間作りとコスト管理の両立に繋がります。
| チェック項目 | 確認すべきポイント | なぜ重要か? |
|---|---|---|
| 給排水設備 | 排水口の位置、口径、排水量 | レイアウトの自由度、動線、追加工事費に直結する |
| 電気容量 | ビルの総容量、増設の可否と費用負担 | 導入したい医療機器が使えるか、事業計画の根幹に関わる |
| 天井の高さ | 圧迫感はないか、高すぎないか | 患者様の快適性、空調効率、内装コストに影響する |
3. 契約だけでは終わらない!
開業に必要な2大行政手続きのポイント
無事にテナント契約が済んでも、安心はできません。内装工事の着工前後には、消防署と保健所への手続きが待っています。これらも事前に把握しておくことで、スムーズな開業準備が可能になります。
消防署への届出:「防火管理者」の選任と計画
クリニックの規模に関わらず、「防火管理者」を選任し、消防署へ届け出る義務があります。
- 防火管理者とは:消防計画の作成や避難訓練の実施など、防火管理の責任者。常勤かつ、頻繁に退職しない人物が望ましいとされています。
- 資格取得:資格取得には2日間の講習と試験が必要で、多忙なドクターにとっては大きな時間的負担となります。
- 事前計画が重要:先生ご自身が取得するのか、ご家族や信頼できるスタッフに依頼するのかを、早めに計画しておきましょう。
保健所への届出:事前相談で手戻りを防ぐ
内装工事については、着工前に図面を持って保健所に「事前相談」に行くことが強く推奨されています。相談なしで工事を進め、完成後に基準を満たしていないことが発覚すれば、大規模な手直しが必要になるからです。
保健所が特に重視するポイントは以下の通りです。
- 水回り:院内感染防止の観点から、処置室などへの手洗い設備の設置が求められます。
- プライバシーの保護:患者様の声が他の患者様に聞こえないか、動線上で安易に顔を合わせないかなど、間仕切りやレイアウトへの配慮が厳しくチェックされます。
注意点:コスト削減のため壁の上部を開けたデザインにすると、プライバシー保護の観点で指摘されることがあります。一方で、消防署からは排煙のために上部を開けるよう指導されるケースもあり、両者の要件をすり合わせる調整が必要になることもあります。
工事完了後、10日以内に「開設届」を提出して、ようやく診療を開始できます。
4.理想の物件は待ってくれない!
テナント決定までのリアルな期間
これだけ多くの検討事項や手続きがあるため、準備には時間がかかります。しかし、忘れてはならないのが、「良い物件は、他の業種も狙っている」という事実です。
ビルオーナーの意向もあり、物件を長期間押さえておくことは難しく、通常は2〜3ヶ月程度で契約の可否を判断することが求められます。先生が複数の候補を比較検討する期間を含めても、多くの方が半年以内にはテナントを決定しているのが実情です。
このスピード感に対応するためにも、やはり「事業計画」や「クリニックの設計図」を事前にしっかり固めておくことが、チャンスを逃さないための鍵となるのです。
5. まとめ
クリニック開業におけるテナント選びは、単なる「場所探し」ではありません。先生の理想とする医療を実現するための「土台作り」そのものです。今回の記事でお伝えした、後悔しないためのポイントを改めてまとめます。
- 順番が命:物件探しより先に、診療メニューと事業計画を徹底的に具体化する。
- 内見の3つの生命線:給排水、電気容量、天井の高さをプロの視点で必ずチェックする。
- 行政手続きを先読み:消防署・保健所への届出内容を把握し、事前相談で手戻りを防ぐ。
- スピード感を意識:チャンスを逃さないため、迅速に意思決定できるよう事前準備を万全にする。
テナント選びは、クリニックの成功を大きく左右する重要な分岐点です。少しでも不安や迷いがある場合は、一人で抱え込まず、経験豊富な開業支援の専門家に相談してみることをおすすめします。きっと、より確かな一歩を踏み出す力になるはずです。